業界分析
旅行会社とは旅行者のために交通機関や宿泊施設の手配やパッケージ旅行の商品開発や販売などを行っている企業のことで、法律で「旅行業」と「旅行代理店業」に分けられている。
旅行業者は、国内・海外の旅行を企画できる「第一種」、国内旅行のみを企画できる「第二種」、一定の条件下で国内旅行を企画できる「第三種」に分類される。旅行代理店業は、旅行業者と代理店契約を締結してツアーなど、旅行商品の代理販売を行っている。 旅行業者は、ホテルや航空会社などから部屋や座席を仕入れてツアーという形にまとめ、自社の店舗・インターネットサイト・旅行代理店業を通じて販売するビジネスモデルが一般的である。
商品の開発過程で、オプションチケットや割り引きクーポンなど、ツアーに組み込むことも多いため、テーマパーク・レジャー施設・温浴施設・商店街・土産物店・各種エンターテインメントや、各地域の特産物を製造するメーカー及び地方自治体などと、綿密な連携を求められることが多い。
コロナウイルスの影響を受ける以前の旅行業界は、日本政府が展開する多様な訪日プロモーションが奏功し、訪日外国人旅行者数は8年連続で増加。2019年の訪日外国人旅行者数は約3,188万人、日本人国内延べ旅行者数は5億8666万人と、ホテル・旅館業界は活況に沸いていた。
旅行業界は最もコロナウイルスの影響を受けた業界である。コロナウイルスにより世界規模で長距離の移動が制限され、観光業界の経済活動は停止状態が続き、倒産した企業も多く存在する。コロナウイルス後の訪日外国人は、2020年4月が昨年比99.9%の2900人と、統計開始以来最低の数字となった。国内では東京ディズニーランドはやっとのことで7月に再開を開始したが、消費者も旅行に対しての消費意欲は著しく落ち込んでいる。
M&A動向
2021年に持ち越された東京五輪と早期の市場回復を見込む国内旅行需要に備えて、コロナ禍の収束を見越した動きも見られている。
H.I.S.ホテルホールディングス(東京都港区)は、新型コロナウイルスの影響で収益が悪化しているホテルや旅館を対象に、M&Aや資本、業務提携、人材派遣などの取り組みを開始。 沖縄・久米島のリゾート施設「リゾートホテル久米アイランド」の運営や管理業務に参画。ほか複数の宿泊施設と同様の協議を行っている。
新型コロナウイルス向けワクチン開発が急速に進んでいるが、将来的にワクチン接種が実現すれば、外出や旅行の自粛などで溜まっていた観光需要が一気に盛り上がることが想定される。今後、そのような未来を想定した、同様の取り組みが広がっていきそうだ。
過去のM&A事例についても記述しておこう。 従来型の旅行会社や旅行代理店は、店舗を持つ旅行会社がオンラインサービスを展開しても、独自でシステム開発してOTAに参入するノウハウや技術を有してないことが多いため、M&Aで自社にない技術を獲得を目的とすることも少なくない。
2015年、大手旅行会社である株式会社JTBはアソビュー株式会社と資本業務提携を行っている。アソビュー株式会社とは「asoview!」を運営しており、レジャーや体験などの日本最大級予約サイト。パラグライダー・ボルダリング・陶芸教室・遊覧船クルーズなど多種多様なアクティビティを検索・予約できるプラットフォームをもつ。このM&A取り組みは、「るるぶトラベル」と「asoview!」との連携・相互商品提供を行うことにより、オンライン販売を強化を目指したものである。
企業価値の目安
旅行業界全体としてはコロナウイルスの到来により、市場は破壊的なダメージを受けた。 業界全体はビジネスモデルの革命を求められており、アフターコロナに向け、独自の進化を行う企業も増加している。企業を評価する際には、取り扱い商品の強み、客層、オンライン技術の有無だけでなく、コロナ対策として、安全、清潔の実現に向けた受け入れ環境の整備と強みが明確化しているかも重要なポイントとなる。