美容・化粧品業界動向

最終更新日:2021/03/10

美容・化粧品の定義

市場規模

2.6兆円

(前年比 ほぼ横ばい)

業界シェア

業界分析

新型コロナウイルス感染拡大を受け、化粧品業界も大きな打撃を受けている。
経済産業省の発表によると、2020年5月時点での日本における化粧品業界の市場規模は、化粧品出荷ベースでの販売金額が984億5,759万円、前年より391億円のマイナス(前年同月比71.6%)となり5カ月連続の前年割となった。百貨店や化粧品専門店は美容部員がお客様に化粧を施し商品を試していただくタッチアップを自粛している企業も多く、従来の販売手法から時代に合わせた変化が必要となってきている。 消費者はマスク着用の生活スタイルの定着などにより、マスクで肌が隠れる部分(口紅やチークなど)のメイクアップ商品の動きが鈍くなっている。 観光庁によると、2019 年の訪日外国人旅行者は過去最高の3,188 万人と7年連続で過去最高を更新した。しかし、新型コロナウイルスにより世界中の市場が大きな打撃を受ける中で、訪日外国人旅行者は2020年4月に前年同月比マイナス99.9%の2,900人まで減少。入国制限措置が緩和された現在においても、訪日外国人旅行者数がすぐにコロナ以前の状況に戻るとは考えられず4,000億円規模あるとされるインバウンドの化粧品市場の回復は数年を要することが予想される。

化粧品関連企業では、コロナ渦での極めて厳しい経営業績とウィズコロナ時代に向けた新たな取り組みが見受けられる。大手の資生堂は全国的な経済活動の停滞、企業収益や雇用情勢の悪化などによる消費活動が低下したことなどを受け、2020年第2四半期(2020年1月1日~2020年6月30日)の売上高が前年同期比26%減と落ち込んだ。地域別の売上高を見ると、売上構成比36%を占める日本事業の減収が目立ち前年比 31.9%減となった。一方、売上構成比23.9%の中国事業は早期回復傾向にあり、第2四半期はプラス成長となった。Eコマースの成⻑によりさらなる回復が期待される。
国内でもコロナ禍での非接触型購買ニーズに対応できるようオンラインを活用し、時にオフラインと融合させながら顧客応対を柔軟に展開する企業が増えている。 資生堂は2020年7月22日より新たな取り組みとして、ライブコマースを日本国内で本格的にスタートした。美容部員が化粧品の特徴や美容法を紹介するライブ映像を配信し、消費者はチャット機能を使いリアルタイムでコミュニケーションを取りながら商品を購入できるオンラインサービスである。コーセーは期間限定のキャンペーンを展開し、通常Eコマースで販売をしていないブランドをECサイトで販売するなど新たな取り組みを行った。また、オウンメディア「Maison KOSE(メゾンコーセー)」にて2020年3月からバニッシュ・スタンダードが提供するアプリ「STAFF START」を化粧品業界で初めて導入。美容部員が商品知識やメイクスキルを投稿し、消費者の商品購入につなげる活動を始めている。

2017年度のエステティック業界の市場規模は3,597億円で、前年と比較して0.2%の微増であった。近年は2000年をピークに横ばい状態が続いており、事業所数も5,000店舗前後で推移している。

大手では、ジンコーポレーション(ミュゼプラチナム)で売上が319億円。続いて、TBCグループ(エステティックTBC)が売上300億円、シェイプアップハウス(ミスパリ・ダンディハウス)が227億円、ソシエワールド(ソシエ)が162億円、不二ビューティ(たかの友梨ビューティクリニック)が160億円となっている。従業員数は業界全体で2万人であり、就業者の男女比は女性約9割、男性約1割である。
現在エステ業界は、施術収入が中心となっているが、個人消費の低迷により収益性も低下傾向にあるため、物販収入に力を入れている企業も増加している。また、多様化するニーズへの対応により伸びる余地のあるカテゴリーも存在する。低価格の訴求や、市場が低迷しているメンズエステ市場の開拓、エステサロン特有の空間などの付加価値を消費者に提供することなどである。 またエステ業界はエステティシャンの人材不足が深刻な問題となっている。その背景には少子高齢化や労働環境の悪化が挙げられる。優秀なエステティシャンやエステ業界の労働人口を確保するためにはエステ業界の労働環境を改善することが急務である。

M&A動向

近年での大きなM&Aは、2018年10月、ヘルスケア製品メーカーのジョンソン・エンド・ジョンソン(アメリカ)が、「ドクターシーラボ」を展開するシーズHD(東京都)を株式公開買付などを通じて約2,300億円で完全子会社化すると発表した案件だ。ジョンソン・エンド・ジョンソンは業績拡大のため日本市場での優位性を高める狙いがあると思われる。
日本では大手の資生堂(東京都)が積極的なM&Aで業界をリードする。2016年に、メークアップ・スキンケアブランドをグローバルで展開するGurwitch Products(アメリカ)を買収した。国内の化粧品企業同士でのM&A事例としては、2016年12月、株式会社山田養蜂場が株式会社ポーラ・オリビスホールディングスの子会社である株式会社PDCの全株式を譲受けた。山田養蜂場は養蜂産品を中心とした健康食品、化粧品及び自然食品の研究・開発、製造、販売を展開している。PDCはドラックストアなどの一般小売流通市場における事業展開を目的に、「ピュアナチュラル」などのスキンケア用品を提供している会社である。山田養蜂場はPDCを譲受けることにより、PDCが持つスーパーやドラックストアへの販路拡大を見込んでいる。
また、高機能化粧品やメークアップ商品の売上が好調なことから、異業種から化粧品業界に参入する事例が増加している。異業種からの参入は、2013年に容器事業・充填事業の大手であるホッカン・ホールディングス(東京都)が化粧品の開発、受託充填、販売を手掛けるコスメサイエンス(東京都)の全株式を取得し、孫会社化したケースがある。日本化粧品メーカーによる製品開発スピードの加速化や異業種からの新規参入などにより、国内市場の競争は熾烈化している。そのため、M&Aを活用することで、ブランド力の強化や事業規模の拡大を目的として海外進出を図る企業が増加している。

エステサロン業界は約7割近くが個人経営のため、公開されているM&Aの情報は少ない。 RVH(東京都)は2015年にジンコーポレーション(福岡県)から同社子会社であるミュゼプラチナムを完全子会社化した。その後2017年にはたかの友梨ビューティークリニックを運営する不二ビューティーを完全子会社化、2018年にはレディスウェアを企画・製造・販売するラブリークイーン(岐阜県)を完全子会社化した。RVHはM&Aでグループを拡大させ、現在のエステティック業界をリードする企業となった。
異業種から参入するケースは、三越伊勢丹ホールディングス(東京都)が、2016年12月にヘアサロン・エステサロン等を展開するSWPホールディングス(東京都)の全株式をポラリス・キャピタルグループから取得したケースがある。以前は事業救済的な観点からのM&Aが主流であったが、大手企業によるM&Aによりエステ業界のコンプライアンスが向上するというM&Aの新たな効果を期待する向きもある。

企業価値の目安

化粧品は、製品需要が比較的安定しているうえ、基礎的な製造設備は長期にわたって使い続けられることもあり、売上高の中に占める売上原価の割合(売上高原価比率*2)が低いが、その反面、販売費および一般管理費(販管費)が売上高に占める比率(売上高販管費比率*3)が高いという特徴がある。これは美容部員の派遣や、訪問販売、売り場作りといったコストに加え、ブランド力が重要となるため広告宣伝に多くのコストを投じているためと考えられる。ブランド力が業績を左右するため、ブランド価値を高め、その価値を落とさないための取り組みにかかるコストを含めた企業価値の判断が求められる。 EV/EBITDA倍率*1は平均20.6倍となっており、14倍以上で約55%を占めている。

*1 EV/EBITDA倍率 買収にかかるコストを何年で回収できるかを示す値。 値が低ければ低いほど、短い期間でコストを回収できる企業であるということを示す。一般的にEV/EBITDA倍率の平均は8~10倍と言われている。
*2売上高原価比率 売上高の中に占める売上原価の割合を表すための収益性分析の指標のことである。 売上原価率と売上総利益率を合計して計算すると、1または100%になる。 例えば、売上原価率が80%だとすると、総利益率は20%になる。
*3売上高販管費比率 販売費および一般管理費(販管費)が売上高に占める比率。 販管費は営業費とも呼ばれ、売上高販管費率は営業活動の効率性を判断する指標として用いられる。 一般的に売上高販管費率が低いほど企業の採算が良いことを示している。