物流・運送業界動向

最終更新日:2021/03/10

物流・運送の定義

市場規模

12.8兆円

(前年比 4.3%増)

業界シェア

業界分析

物流はトラックや船、航空機などのさまざまな交通手段を用いて、製品を生産者から消費者に引き渡すことである。中でもトラック運送業は全体の約60%と大きな割合を占めており、市場規模は約14兆円。業界全体に渡って赤字で縮小傾向が続いている。(2020年公益社団法人全日本トラック協会発表) トラック輸送業界は巨大企業数社が市場を牽引しているが、実際のところ従業員1,000名を超える企業は0.1%に過ぎず、業界の99%が、従業員数300人以下の中小企業である。 業界が抱えている問題として、人材不足・競争による単価の下落・燃料費上昇などがあげられる。
特に運送会社・流通会社は慢性的なドライバー不足の問題を抱えている。トラック業界の給与は他業種に比べ低く、出勤スケジュールも不規則、睡眠、食事、入浴などの時間帯も不規則で、長時間労働となる割合が高いうえに、ハードな労働環境にあるため、人材の確保が難しい状況が続いている。大手に比べ、知名度の低い運送会社では人材難により人手不足から廃業に追い込まれるケースも多い。
業界の競争激化の要因には、インターネットショッピングの急成長が関係している。 ネット上で商品を販売するECサイトは新規参入がしやすく、その結果運輸需要が高まり、トラック運輸業界へ毎年1000社程の事業者新規参入を果たしている。しかしながら、運送会社・流通会社の競争激化により、運送に対する単価が低下。人件費や運用費用などの確保が難しくなっている。
近年、運送業界は深刻な人材不足を解消すべく、労働環境の改善へ向けて、業界全体で動き出した。2015年、国土交通省・厚生労働省は、トラック輸送の適正取引の推進やドライバーの長時間労働の抑制を目的として、「トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会」を設置。協議会が作成したガイドラインに基づき、荷主とトラック運送事業者が協議して業務内容を見直すなど、改善に向けての動きが活発化している。その他にも公益社団法人・全日本トラック協会の指導のもと、新卒者の中型免許取得のための助成金の拠出、女性が働きやすい環境の整備も行われている。労働環境を改善し、新卒や女性ドライバーを積極的に雇用することで、現在抱えている人手不足やドライバーの高齢化などの問題解決を目指している。

M&A動向

現在、インターネットネットショッピングの多様化や東京オリンピックに向け、運送会社・物流会社のM&Aに対する需要は高まっている。 M&Aのケースには大手事業主が中心となって販売の拡大やドライバー確保を目的に、小さな運送会社などが集約される事例や、業界再編を目的とした買収が多く存在する。
2019年、物流事業と不動産事業を展開している安田倉庫株式会社(東京都)は、北陸3県に配送ネットワークを保持している大西運輸株式会社及びオオニシ機工株式会社の全株式を取得し、子会社化した。安田倉庫は、大西運輸グループの持つ物流網やノウハウを獲得し自社の事業と連結することにより、輸配送網の更なる拡大とサービス向上を目指した。
2018年、富山県高岡市に本社を置く運送会社であるトナミHDは、グループ全体の事業力の底上げと、労働力確保や既存事業規模の拡大を目的に、トラック運送業を主軸としている株式会社ケーワイケー(千葉県柏市)を買収し、完全子会社化。
2017年、運送会社である株式会社ゼロは、車両輸送の運送会社である株式会社ロジスティクス(青森県八戸市)を買収し、完全子会社化した。同社はグループ全体の運送業の再編を進めており、M&Aにより全国5ブロック制を実現。地域別に統括会社を次々に設立させた。株式会社ロジスティクスは今回のM&Aによって、社名を「株式会社ゼロ・プラス東日本」に変更し、北海道・東北を統括している。 2016年、輸送事業社である日本通運株式会社(東京都)は陸運事業を展開している名鉄運輸株式会社(愛知県名古屋市)の株式のうち、20%を取得し、資本業務提携を締結。日本通運は名鉄運輸と資本業務提携することにより、輸送網の相互利用、物流の連携強化、仕入れや購買を共同で行うことによる原価削減を狙った。このM&Aで日本通運は親会社の名古屋鉄道株式会社に次ぎ、第2位株主となった。

企業価値の目安

EV/EBITDA倍率は平均9.38倍。6~10倍の幅が全体の約41.3%を占有。 業界の構造的に負債は増大しやすく、収益の拡大は設備投資と比例する傾向にある。(※トラックや倉庫、不動産など) また、設備投資にリースを活用しているケースが多く見受けられる。非上場企業はリース債務を決算上の負債に計上していないパターンも存在するので、買収価額の算定時には、売却価額の推測に注意しなければならない。