介護業界動向

最終更新日:2021/03/10

介護の定義

市場規模

0.9兆円

(前年比 8.0%増)

業界シェア

業界分析

介護業界は「通所型事業」と「住宅型事業」の2種類に分かれている。
通所型事業は主に、要介護度が低くても気軽に利用やすいサービスを展開する介護保険サービスで、デイサービスと呼ばれている。利用者は日帰りで施設に通うことで、体操や食事、入浴などのサービスを受けることができる。また、通所型事業には、介護職員や看護師、生活相談員、機能訓練指導員などのスタッフが高齢者の支援を行うために、配置されている。
通所型事業のサービスは気軽に利用しやすいため、初めて介護サービスを利用する方も多く、将来的に住宅型事業を利用するような潜在的顧客が含まれると期待でき、住宅型事業への送客パイプと位置付けて、住宅型事業社が買収するケースも多く見られる。通所型事業の利用者は、頻繁に休んだり、数回利用して以後来所しないケースも多く、収支が安定しにくい難点も持ち合わせている。
住宅型事業は主に有料老人ホームやグループホームを運営している。住宅型事業の特徴としては、利用者が施設に居住することや、利用者の収入・要介護度で細かく分けられていることが特徴で、住宅型事業の経営には3つの利点が存在する。 利用者が入居するため、利用者が長期的なユーザーとなり非常に収支が安定することや、総量規制が存在するため、過当競争に陥りにくいにくいこと。立地が悪いところで開業しても、事業の性質上一定の集客が見込め、価値がつかない土地の活用先としても有望な事業であることである。
経営が安定しやすく、場所を選ばず開業ができ、過当競争に陥りにくい、住宅型事業のM&Aニーズは高い。 但し例外として、住宅型有料老人ホームに限り、買収ニーズは減少傾向にある。
超高齢化社会に向けて、日本の介護業界全体の課題に深刻な人手不足があげられる。 少子高齢化社会の到来により、市場規模は拡大していくと考えられるが、それに伴う人材の奪い合いは必至といえる。 介護サービス事業者の61.3%が人手不足感を感じているという調査結果がでており、理由の7割が採用難であると回答している。
※公益財団法人介護労働安定センターの介護労働実態調査(平成28年度)
採用難の解消と定着率アップを実現するために、住宅型事業の経営は待遇の改善やメンタルフォローを行い、状況を改善している事業者も存在する。

介護報酬の改訂がもたらす売上の変動について 政府によって、介護サービスの価格は定められており、毎年改訂されることで価格が変動している。 2018年度+0.54%のプラスに改訂、ポジティブ要因となったが、過去の推移は-2.27%と大きなマイナス改定された年度も存在している。 超高齢化社会が到来した後も、長期的に介護報酬が増加することは難しいのではないかと考えられている。

M&A動向

近年の介護業界の傾向としては、大手企業が中小事業者を買収するケースと過去に異業種参入した企業がさらなる拡大のためにM&Aを活用するケースがある。

大手企業が中小事業者を買収するケース。 2017年ソラスト(東京都港区)は、介護事業へ強い成長性を見出して、日本ケアリンク(同千代田区)の全株式を取得し、子会社化。 この買収により、ソラストが首都圏で運営する介護事業所は217ヵ所に増え、これまでは在宅系サービスを中心に展開してきた同社は、施設系サービスの拡充に乗り出した。
※ソラスト(東京都港区):医療関連事業や介護事業、保育事業と多角経営。
日本ケアリンク:「せらび」を運営。グループホームや小規模多機能型居宅介護、有料老人ホームなどの施設系サービスを首都圏で39ヵ所展開。買収以前は赤字が続く状況だった。(2017年3月期の経常利益は6600万円となっている)
大手企業、ユニマットリタイアメントコミュニティ(東京都港区)がユニマットリタイアメントコミュニティがホームライク湘南を買収した事例も挙げられる。
※ユニマットリタイアメントコミュニティ:介護事業、不動産事業、グループ保有資源を活かしたリゾート型の不動産事業などを展開。
ホームライク湘南:湘南地区にグループホーム1棟を運営。

介護事業の拡大を目指し中小事業者を買収するケース。 大東建託(東京都港区)は同経営者が運営する、さくらケア(東京都世田谷区)と、うめケア(東京都世田谷区)の2社を買収。 大東建託は今後も不動産関連事業を主軸にで成長しつつ、介護事業なども強化することで、安定した経営基盤を確立することを目指しM&Aを行ったと考えられる。
※大東建託(東京都港区):不動産関連事業を展開。介護事業も展開。
さくらケア・うめケア:16事業所で介護事業の展開とコンサルティングサービスを提供。

ココカラファイン(神奈川県横浜市)はシニアコスモス(東京都大田区)を買収。ココカラファインは同社子会社を通じ介護事業や訪問介護事業を展開してきたため、それらの拡大に向けて傘下に収めたのではないかと推測される。
※ココカラファイン:合併前より、現在の子会社経由で介護事業や訪問介護事業を展開。
シニアコスモス:訪問看護事業を展開。1事業所のみで運営。

数年前までは大手企業同士の買収も多く見受けられたが、近年そういった事例は減少し、大手企業が中小企業を買収する例が増加傾向にある。 また、M&Aによって異業種参入を果たした企業も多く見られる。

企業価値の目安

EV/EBITDA倍率(n=17)平均は15.6倍、全体的に10~12倍台が多くみられる。
介護業界全体としては少子高齢化社会の到来により、市場拡大が見込まれているが、政府による介護報酬の改訂など、外部要因の影響を受けやすい所が不安要素として見受けられる。企業を評価する際には様々な方面(財務データのチェック・従業員構成や人員配置・立地など)から分析を行うことがポイントとなる。