業界分析
政府が2015年に実施した法律の大改正により、派遣業界は特定派遣事業所を廃止。すべて許可制に統一する、許可基準改定が行われた。 今回の改正により過去に届け出を行い設立された特定派遣事業所は、2018年9月29日までに認可を得なければ事業を継続できない状況に陥った。 改正内容としては「資産-負債(基準資産額)が2,000万円×事業所数以上であること」、「自己名義現金預金額(資産の中の現金)が1,500万円×事業所数以上であること」、「資産-負債が負債の7分の1以上であること」など、財産的基礎の許可基準が設けられている。 これにより基準を満たせない事業者は、廃業、事業譲渡、認可事業者の傘下に入る必要に迫られ、業界は大規模な業界再編が起きると予想されていた。しかし基準を満たせない業者が、SES契約などの準委任契約など認可を得ずに事業を展開できる抜け道を見つけ出し、業界再編は進まなかった。 近年、準委任契約の事業者は、事業を継続的に展開できている事業者と、規制で経営が厳しくなり同業者に買収される事業者・人材確保を目的とする事業会社に買収される事業者に両極化している。
■エグゼクティブ人材サービス
高収入労働者向け転職サービス事業で急成長している「ビズリーチ」や顧問ネットワークを提供する「パソナグループ」、顧問名鑑を開始した「レイスグループ」など、現在はエグゼクティブ人材対象の人材サービスが急伸している。 理由として2つの市場変化があげられる。 1つ目は消費者のニーズが急速に変化する中で、既存事業の枠を超えた新規事業にチャレンジする企業が増えたことにある。 現在、企業の既存事業だけでは企業の成長が頭打ちになっている企業が多くあり、新たな収益源を獲得するべく新規事業へのチャレンジを加速させている。 既存事業にはない新規事業を展開するにはそれをリードする人材が必要となるが、社内に的確な人材はいないため、外部からエグゼクティブ人材を獲得せざるを得ないのである。 2つ目はスタートアップ系企業が急増していることが背景にある。起業当初は事業をドライブする人材で立ち上がるが、事業が成長していくと組織をまとめたり、経営視点で戦略を考えたり、事業開発ができるエグゼクティブ人材が必要になり、その受け皿がエグゼクティブ人材サービスとなっている。
■人材サービス会社のM&A参入
今後、人材サービス会社はM&A仲介事業に参入が予想されている。 人材サービス会社は、転職サイトで人材と企業をマッチングを行ってきた経験から、企業と企業をマッチングさせるサービスを実施できる他、M&Aを仲介することで企業の人材確保のサポートも行える。業界特化型の人材サービス会社は業界起点のM&Aの仲介サービスを始める傾向がある。
M&A動向
大きな事例としては、国内最大手のリクルートホールディングス(東京都)が米国で求人企業の評価などを共有できるウェブサービスを運営:Glassdoor社(米国)約1,300億円で買収したことで、2018年度の日本企業買収金額の超大型案件と言われている。リクルートホールディングスはGlassdoorの全株式を取得し、完全子会社化することで自社の子会社である、Indeed(米国)と協働してグローバルでのオンラインHR領域の発展と拡大を目指すと推測されている。 人材サービス業界も、多くの事業者が、他分野の人材サービス業や海外人材サービス業に注力するべくM&Aを活用するケースが増加傾向にある。 事例をいくつか紹介すると、国内で建設技術者派遣事業と施工図作図事業を展開している夢真ホールディングス(東京都)の場合は、技術者派遣会社である三立機械設計(東京都)・ITエンジニア派遣会社であるネプラス(東京都)・ITエンジニア派遣会社であるCenturion Capital Pacific(比国)を子会社化。他分野や海外の人材サービス業に参入するための買収案件が増加している。 また、子会社を通じて人材サービス会社を買収するケースもある。 多角的に事業を実施する企業であり、人材サービス業も展開しているITbookホールディングス(東京都)は、ITコンサルティングを専門とするITbookホールディングス(東京都)の完全子会社であるITbook(東京都)を通じて、専門職の派遣に特化した事業者のイスト(東京都)を子会社化。ITbookホールディングス(東京都)は人材サービス業も展開しており、新たな分野への進出と既存事業との融合を生み出せると考え、イストをグループに迎え入れた。 アルバイト紹介を主力としているフルキャストホールディングス(東京都)は、家事代行サービスをしているミニメイド・サービス(東京都)の全株式を取得し、完全子会社化。家事代行サービスが主力事業のアルバイト紹介に付加価値を与えるものと判断し、シナジー効果が生み出せると考え買収を進めたと推察される。 シンクロ・フード(東京都)は自社の運営する「求人@飲食店.com」・「飲食 M&A by 飲食店.com」の顧客データと、飲食業界に特化した人材サービス・M&A仲介サービスを実施する会社であるウィット(東京都)の保有する顧客データを共有することで、多くの飲食店の情報が手に入り、満足度の高いM&A仲介サービスが提供できると考え、買収を行ったと予想される。人材サービス業界において、シンクロ・フード(東京都)のように、M&A仲介サービスを展開していく企業にとって、情報量の多さは最適な企業のマッチングを支えることに繋がるため、今後も情報量を増やすための同様の買収・合併は増加していくと考えらえる。
企業価値の目安
人材サービス業界は活況で、多くの企業評価は高い状況である。 EV/EBITDA倍率は、平均が約19.4%。倍率の全体が、10~16倍の28.9%を占め、20倍~も約33.3%を占めている。