建設業界動向

最終更新日:2021/03/10

建設の定義

市場規模

16.9兆円

(前年比 4.1%増)

業界シェア

業界分析

建設業界では東京オリンピック・パラリンピック関連の大型再開発が発注のピークとなった。2018年度の建設投資は56兆6700億円の見通しとなり、2017年度と比較して1.2%の微増となった。スーパーゼネコン、準大手・中堅ゼネコンは、軒並み好決算を記録した。
建設業界は、1985年のプラザ合意による円高の拡大と、内需拡大の要請による地方への公共投資の増加によって、大きく市場規模を膨張させた。建設業の市場規模(建設投資)は、1992年度に84兆円と頂点に達してから一転、バブル崩壊による財政逼迫状況を反映した公共工事の発注量の減少・民間設備投資の減少等を背景に縮小傾向が続き、2010年度には42兆円と半減した。2011年度以降は、東日本大震災の復旧・復興、安倍政権の経済政策、東京五輪に向けたインフラ整備等の影響もあり、工事量が急増し、ゼネコン各社が利益率の高い案件にシフトしたことが近年の好業績につながっている。
今後は、被災地における震災復旧の工事(インフラや防災強化)、被災地以外では、省エネ、耐震関連の需要(老朽ビルの建て替え、学校、医療・介護施設などの建て替えや新設)が増加することが見込まれている。しかし、ピーク時と比較すると国内建設投資は半分の水準まで縮小していくものと予想されている。そのため、競争がますます熾烈になることが予想される。 一方、世界的な建設市場は日本の10倍程度と推計され、新興市場を中心に今後も持続的な成長が期待できる。大林組や鹿島建設などのゼネコン大手各社は海外受注の拡大を打ち出しているが、海外進出に伴う、交渉や契約プロセスの構築、リスク管理体制の強化など課題は山積している。
また、人手不足も深刻化している。 2017年度の建設業就業者数は約498万人と、ピークの1997年から約7割まで減少した。 過酷な労働環境のイメージによる若者の入職者の減少、高齢就業者の引退により、今後も就業者数の減少が予想される。地方の中小企業は若者の減少に加え、知名度の低さと自社アピールの機会が限られることも、人手不足を深刻化させる要因となっている。これに対し、ゼネコン各社は労働環境の改善や機械化を進めると同時に、ITシステムの導入に取り組んでいる。 そのほか、2018年4月には、作業中の身体にかかる負担を軽減させる作業用スーツが発表され、これによる人手不足改善が期待されている。また、2018年12月に政府は出入国管理及び難民認定法(入管法)入管法を改正し、建設業を含む特定業種で外国人労働者の受け入れを拡大することを決定した。こうした政策も、慢性的な人手不足の改善につながると見込まれている。
都心では現場監督が不足している。現場監督が持つ施工管理技士の等級に応じて受注できる工事の内容が変わるため、建設業界では優秀な現場監督の確保が急務となっている。 しかし、就業者の高齢化などの影響で、多くの企業が現場監督不足に苦しんでいる。 建設業界の課題に、都心と地方との業績格差が挙げられる。 2017年度の地域別建設活動の出来高ベースを見ると、トップの関東地方と最下位の四国地方の差は出来高ベースで約12.5倍となっており、その背景には東京オリンピック・パラリンピック関連の大型受注などがある。 公共工事の受注には経営事項審査が必要になり、審査の点数で受注できる工事の規模が決るため、スーパーゼネコン、準大手・中堅ゼネコンに比べて点数が低くなる地方の中小企業は、公共工事の受注が難しく、今後も格差は縮みそうにない。

M&A動向

建設業は長年に渡って業界再編が起こりにくいと言われてきた。業界の特性により規模の経済が働きにくく、2社以上の企業が合併し1社になることで公共工事における入札参加機会が限定されるなどデメリットが大きいためである。しかし、近年では商圏の拡大や人材不足の解消を狙ったハウスメーカーによる中堅ゼネコンの買収のように業界の枠を超えた再編の動きが見られる。
異業種からの参入の例では、2018年度に建設工事業の日装建(熊本市)を子会社化した卸売業のヤマエ久野、積水化学工業から住宅用断熱ボード事業を取得した化学工業メーカーのフクビ化学などがある。
商圏の拡大を狙った例では、注文住宅の建築事業などを行うサーラコーポレーションが、2019年に静岡県で注文住宅の建築などを行う宮下工務店を株式譲渡により子会社化した。これにより、サーラコーポレーションと宮下工務店は経営資源の共有により静岡県での事業強化を図る。
同一地域や隣接地域のM&Aでは、等級の高い現場監督や、500万円以上の工事を受注する際に必須となる建設業免許を獲得するために、同業の中小企業を子会社化する案件が目立つ。
海外展開を目的とするM&Aは、2017年度に鹿島や大林組など多くの建設会社が行った。2018年度の海外M&Aは件数が少なく、リスク管理などの課題をクリアする必要があるためか各社の慎重な姿勢が見受けられた。
事業承継を目的としたM&Aも増加傾向にある。 2018年1月に住宅関連のコンサルティングサービスを提供するハイアス・アンド・カンパニー(東京都)が、住宅会社のアンビエントホールディングス(香川県)及び子会社のハウス・イン・ハウス(同)から、「R + house事業」「アーキテクチャル・デザイナーズ・マーケット事業」などを取得した。今後も後継者不在の問題は続き、事業承継を目的としたM&Aは増加することが予想される。

企業価値の目安

EV/EBITDA倍率は平均19.3倍で、分布としては2~8倍台が多く、数値上はやや低めの分布となっている。EBITDA倍率が低めに分布している理由として、事業価値に比してEBITDAが過大な会社が多い可能性が考えられるため、企業価値算定に当たっては注意が必要だ。
建設業界でM&Aを進める場合、人材に対する価値評価に注意を払う必要がある。中小建設業の場合、有能な人材の退職や転職により事業そのものが危うくなるケースもあるためだ。 また、建設業は、製造業などと比べてキャッシュフローに基づく企業価値の評価が難しいといわれる。翌年度以降の受注が突然なくなることや、施工中に発注者が破綻して工事費が不良在庫化するリスクがあるためである。 こうしたリスクも考慮した上で、企業価値評価の妥当性を慎重に吟味することが重要である。