ここでは、自社株式の消却について書いていきます。自社株式という表現は会計や税務、コーポレートファイナンスの世界では自己株式という表現することが多いので、自己株式の消却という表現にして行きたいと思います。実際にどのような会計上の仕訳になるのか、税務上の処理はどうなるか、M&Aのディールでは実際にどのように考慮されるのかということについてです。
なお、自己株式の消却は、自己株式を消滅させることにより発行済株式を減らす行為をいいます。
自己株式の消却の概論
自己株式の消却については、過去に取得した自己株式を会社法上の手続きに基づき消し去ることになります。自己株式の消却により発行済み株式総数を減少させることができるので、上場会社では一株当たり当期純利益を計算する際に、分母の数値が小さくなるので、一株当たり純利益が大きくなります。また一株当たり純資産の数値も大きくなることが容易に想像できると思います
非上場会社のM&Aではあまりなじみがないですが、上場会社ではメジャーな論点ですので頭に入れておくといいと思います。未上場会社でも、将来的に上場を意図している場合は、自己株式の消却や、他の自己株式の論点について頭に入れておくと今後の財務や資本政策についてプラスになります。
特に上場会社では株主の目線は非常に重要なので、自己株式の消却をすることにより、一株当たり純資産や一株当たり当期純利益が向上することは好感を持って受け入れられます。
実際に自己株式の消却のプレスリリースを確認してみたい人は、ロイターなどの金融業界向けの情報プラットフォームで探してみるといいでしょう。のちほど実際にどのようなプレスリリースがなされるかを紹介していきますが、自社が自己株式の消却を将来行う際には文言などが参考になります。
自己株式の消却をする際の会社法での規定
自己株式の消却については、日本の会社法でその手続きが定められています。具体的に説明すると、会社は株主総会の決議に基づいて、(取締役会設置会社の場合は取締役会の決議)市場に出回っている自社の株式を自ら買い取り、消滅させることができます。自己株式の消却により買い取った株式は、資本準備金または剰余金などを取り崩して消却することになります。資本金を取り崩した場合は減資という扱いになります。(会社法178条参照)
自己株式の消却に関する会計処理
自己株式の消却の会計上の仕訳は以下のようになります。
その他資本剰余金 XXX / 自己株式 XXX
この仕訳をみても分かるように、いずれも純資産項目を変化させるだけなので、損益計算書にはインパクトはありません。そして貸借対照表においても純資産の変動はなく、純資産項目の組み換えが行われるイメージです。
なお、自己株式を消却した結果として、その他資本剰余金残高がマイナスとなった場合には、決算時においてその他資本剰余金の金額を0円とします。そして、当該マイナスの金額を繰越利益剰余金から減額する処理が行われます。
自己株式の消却に伴い発生した手数料は、損益計算書の販売費および一般管理費ではなく、営業外費用として処理される点に注意が必要です。
自己株式の消却に関する税務上の処理
自己株式の取得に関しては、税務上はみなし配当など様々な論点があります。自己株式を取得した場合には、税務上はその取得時点で直ちに自己株式を消却したものと考えられます。そのため、その後に会社法の手続きに従い適法に自己株式を消却しても、税務上は特段の処理は生じないことになります。つまり、資本金等の額または税務上の利益積立金額の総額に異動はなく、損益も発生しないことになりますので、特段の考慮は不要となります。
自己株式の消却のプレスリリース
自己株式の消却のプレスリリースというのはあまり見る機会がありませんが、気になる場合は検索してみると実際の上場会社によるプレスリリースが見れるので勉強になるでしょう。
最近では2020年7月にディップという会社が自己株式の消却のプレスリリースを行っていますが、そこでは「自己株式の消却に関するお知らせ (会社法第 178 条の規定に基づく自己株式の消却)」というようにタイトルが記載されております。
このようなプレスリリースの書き出しは、「当社は2020 年X月X日開催の取締役会において、会社法第 178 条の規定に基づき、自己株式を消却することを決議いたしましたので、下記のとおりお知らせいたします」となることが通常です。
プレスリリースでは、消却する自己株式の種類(普通株式など)、消却する株式の数(あわせて、消却前の発行済株式総数に対する割合を記載)、消却予定日を端的に記載します。
そして同時に、消却により会社が保有する自己株式の数が、発行済み株式総数のXX%になるという旨の記載を行います。
実際にこのようなプレスリリースがなされますと、株式の需給改善がなされるので、株価が上昇するケースが一般的です。2020年には上記の会社以外にも、銀行のりそなホールディングスも自己株式の消却を行っており、上場企業の資本政策・財務政策として一般的であることが分かります。
自己株式のM&Aでの活用
M&Aのディールでは、自己株式を利用したディールは数多くあります。先ほど述べた通り、自己株式というのは会社が保有する株式であり、自己株式の消却を行うと発行済み株式数が減少することになり、実質的に資本の払い戻しになります。M&Aのディールでは対価は現金のみならず、自社の株式=自己株式も対価にすることが可能になっており、自由度が高くなっています。
M&Aの案件では、自己株式を対価にした案件で多いのがTOBが絡む案件でしょうTOBとはTake Over Bidのことをいい、株式公開買い付けのことになります。これは主に上場会社での案件でよく聞く言葉になりますが、株式会社の株式の買付けを、「買付け期間・買取り株数・価格」を公告し、かつ不特定多数の株主から株式市場外で株式等を買い集めることをいい、規制や法律で詳細に規則が定められています。一般的には企業買収で用いられる用語で経営権の取得を目的に、市場の流通する自社株式を購入するために実施されることがあります。
最近ではプライベートエクイティファンドが自己株式を利用したTOBを行うことが多くなっています。TOBにより、自己株式を市場で買い付けを行う場合は、売却に応じた株主が法人に該当する場合は株式売却に伴う処理が通常の税務処理とは異なるという点が挙げられます。ここでの重要な論点は、譲渡対価のうち、資本金当の額を上回る部分は、みなし配当として課税されることになり、みなし配当に対する課税では、益金不算入の規定を使用できるメリットがあります。(みなし配当の益金不算入は2015年税制改正により持分割合と益金不算入の割合が規定されていますので注意しましょう)
なお、みなし配当については下記の通りになります。すなわち、2010年度税制改正により、公開買付けなど発行法人が自己株式として取得することを予定している株式を取得・予定どおり自己株式として取得される場合は、これにより生ずるみなし配当は受取配当等の益金不算入制度を適用しないこととされました。しかし、完全支配関係グループ内の法人間での自己株式取得のケースについては益金不算入制度の適用が可能です。
みなし配当とは、法人税法23条に規定する剰余金の配当または分配等には該当しないですが、実質的に剰余金の配当と変わらないため、法人税法上配当とみなし受取配当等の益金不算入の規定の適用を受けることを言います。
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