セクシュアルハラスメントは被害に遭った相手だけでなく、職場の環境を悪化させたり社会の信用を失ったりとさまざまな影響を及ぼす恐れがあります。男性から女性へのセクハラだけでなく、女性から男性へのセクハラも近年問題になっているといえるでしょう。
今回は、会社で気をつけたい発言や行動、実際にあったセクハラの事例を紹介します。
セクハラの定義について
働く人が性別により差別されることなく尊重されるよう、平成18年に改正された「男女雇用機会均等法第11条」にて、事業主はセクハラ防止の措置を講じなければならないと義務付けられました。
- 職場において労働者の意に反して性的な言動を行い、それに対する労働者の反応を理由として労働条件につき不利益を課すこと
- 性的な言動によって労働者の就業環境が害されること
セクハラの判断基準とは?
では、どこからがセクハラにあたるのかについては、明確な基準はありません。セクハラの状況はさまざまで、被害者の心情をくみとりながら状況を判断する必要があります。厚生労働省の資料によると「労働者の意に反する性的な言動」および「就業環境を害される」の判断に当たっては、以下のような内容を示しています。
・一般的には意に反する身体的接触によって強い精神的苦痛を被る場合には、一回でも就業環境を害することとなり得ます。
・「明確に抗議しているにもかかわらず放置された状態」または「心身に重大な影響を受けていることが明らかな場合」には、就業環境が害されていると判断し得るものです。
・男女の認識の違いにより生じている面があることを考慮すると、被害を受けた労働者が女性である場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とし、被害を受けた労働者が男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当です。
参考:厚生労働省 事業主の皆さん 職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です!!
対価型セクハラ
対価型セクハラとは性的な要求に対して対価として昇進や昇格をほのめかす。逆に要求を拒否した場合に解雇や降格、配置転換などの不利益な待遇を受けることです。
環境型セクハラ
環境型セクハラとは、性的な言動により労働者の就業環境を害することです。能力の発揮に悪影響を与え、就業するうえで見逃せないほどの支障が生じることをいいます。
会社で気をつけたいセクハラの発言・行動
相手に好意がなく褒めただけにもかかわらず、発言や行動1つでセクハラに当たる可能性もゼロではありません。
- 今日の洋服可愛いね
- 今度2人で食事しない?
- 彼氏(彼女)いるの?
など、何気ない会話でも相手に悪い印象を与える発言は避けましょう。食事やデートの誘いを何度断っても「違う日は?」としつこく迫ることもセクハラにあたります。
また、面談や指導などで業務上、上司と2人きりにならなければならない場合もあるでしょう。相手によっては「密室=逃げられない」と恐怖を感じる人もいます。出入口のドアを開けっ放しにするなどの対策が必要です。
女性から男性へのセクハラも注意
近年では女性から男性への「逆セクハラ」も社会問題となっています。
- 「男のくせに」と性差別をする
- 過度なボディタッチをする
- 「ハゲ」「デブ」など容姿をいじる
このような言動は、女性であっても男性であっても不快に感じるものです。
とはいえ、上司に相談しても「大袈裟だなー」と見逃されている可能性も考えられます。女性だけでなく、男性への配慮も忘れずに対応を怠らないようにしてください。
実際にあったセクハラの事例
実際にあったセクハラの事例を以下の3つ紹介します。
- 奈良社団法人事件 平成7.9.6
- A社(女子高生アルバイト)事件 平成15.1.16
- 日本航空事件 平成15.8.26
奈良社団法人事件 平成7.9.6
【概要】
被告:理事長
原告:建設関連団体に勤めていた女性
被告は講演会に行った帰りの電車内で原告の太ももを触ったり、手を握って自分の頬にあてたりした。また、別荘への同行を命じ、二人だけのときに「養女になってほしい」などといいながら、原告の胸や腰に触り、頬ずりをして抱き上げたりした。
さらに、勤務中に応接室に呼び出し「なぜ嫌がるのか」「まだ処女なのか」「性欲が出たときにはどうしているのか」などと発言した。
拒絶したところ、原告は理事長から個人的な写真の整理や、作文の提出といった嫌がらせをされ、退職を余儀なくされた。
【判決】
110万円容認(慰謝料 100万円、弁護士費用 10万円)
被告の行為は、原告の明確な拒絶にあっていないとはいえ、その意志に反するものとして不法行為を構成することは明らかである。勤務時間中の言辞も、その内容、職場での両者の関係、性差、年齢差等に照らすと、原告に著しい不快感を抱かせるものとして不法行為を構成する。
ただし、その後、原告に与えられた仕事には報復的色彩はなく、理事長の行為によって退職を余儀なくされたということはできないとして、逸失利益の請求は拒否した。
A社(女子高生アルバイト)事件 平成15.1.16
【概要】
未成年の女性が、アルバイト先の制服販売会社でセクハラを受け、重篤な精神疾患(解離性同一性障害=多重人格障害)に罹患した。本人と両親が会社と被害者の男性に対して、約1,300万円の慰謝料を求めた。
【判決】
両親に対する精神的苦痛も合わせて認め、総額260万円(両親への慰謝料は各20万円)の支払いを命じた。
日本航空事件 平成15.8.26
【概要】
派遣社員である原告が、上司から性的嫌がらせや性的暴力を受けた。
【判決】
被告は、原告が本件事業に従事していられるかどうかの決定権限を有する上司であったところ、この地位に乗じて、若い独身女性である原告に対して、性的嫌がらせと受け取れる発言をして原告に不快感を与え、さらに性的嫌がらせ行為をしたものである。被告の一連の行為は、原告の人格権を侵害するものであって、不法行為を構成するものである。
また、被告の行為は、上司たる職務上の地位を利用して行われたものと認められるから、被告会社は使用者として、被告の不法行為について使用者責任を負うべきである。被告社員及び被告会社に対して、連帯として77万円の賠償が命じられた。
まとめ
職場におけるセクハラ防止措置の対象は雇用形態に関係なく、契約社員・派遣社員・アルバイト・パートタイマーなどの社員も含まれます。顧客や取引先相手へのセクハラも迷惑行為にあたることもあるので、より一層気をつけることが大切です。