M&Aは、売り手企業にとっては安定した経営基盤の確保に役立ちます。代表が高齢の場合の後継者対策など、会社にとってメリットが大きい経営判断です。M&Aで事業を買収したり売却する場合、プラスの効果が得られるように準備しておかなければならなりません。今回は、自社株買いによる「自己株式」の保有について説明していきます。
自社株買いと自己株式
自社株買いについて理解するには、「自己株式」の概念とともに仕組みを理解しておく必要があります。
自己株式とは
自己株式とは、会社が保有している自社の株式のことです。株式は会社が経営する際に資金を調達する直接的な方法です。普通、会社は株式を発行し、株式を出資者に購入してもらい資金を調達しています。そして、出資してもらったお金によって事業が行われ、株価の上昇や配当を行い会社は株主に還元します。自己株式は会社が自身の株を保有している状態なので、株式本来の目的とは異なっているように見えます。しかし、間接的な効果が企業や株主にあります。
自社株買いと自己株式
企業が保有している自社の株式のことです。株式は企業経営における直接的な資金調達の方法です。通常は株式を発行し、出資者に購入してもらうことで資金を得ます。その資金で事業が運営され、企業価値の向上(株価の上昇)や配当などの方法により、株主に還元します。資金を求める企業が自社の株式を買い取るのでは本来の目的を果たしていないように見えますが、間接的な効果が企業だけでなく株主にもあります。
自社株買いと自己株式
会社が発行した株式を自分で買い戻すことを「自社株買い」と言います。
会社が自社の株を買うと、市場に発行済みの売買可能な株式数は減少します。株式の総数が減ると株式の希少性は高まります。「1株当たり利益額」という概念がありますが、これは当期純利益÷発行済株式総数で計算されます。自社株買いによって自己株式が増えればそれだけ発行済株式総数は減少し、1株当たりの利益額は高くなり、株価が上昇することが期待できます。株を保有する株主にとっては株式の価値が上昇や株価上昇が、会社にとっては新規株主を集めることが期待できます。
また、自社株買いをすると、その分は会社法453条によって株主への配当対象外となるため、配当金の総額を下げることも可能です。このように、会社にとって自社株買いのメリットは多くあります
一方で、株の売買は市場の予想を含んでいるため、自社株買いの発表によって短期的な株価の上昇だけを目的としたキャピタルゲイン目的の投資家が集まってくることもあります。過度に短期投資を目的とした投資家が集まると、安定した株主を得られず、会社の株価が乱高下するリスクもあるため、注意が必要です。
自己株式を取得するには
自己株式を取得する方法は、①市場取引、②公開買い付け、③相対取引の3種類が存在します。
①市場取引は、東証などの取引所で売買されている株式を買い取る方法です。市場で株式が流通するには上場していなければなりませんので、上場企業だけが市場取引で自己株式を取得することができます。上場企業や、今後上場の予定がある場合は、最も自社株買いしやすい手法です。
②公開買い付けは、取引所を通さずに買い取り額や買い取り期間などを公示し、自社の株式を保有する株主から買い取って自己株式とする方法です。公開買い付けは市場を通さないため、上場していない会社でも行うことができるメリットがあります。
③相対取引は、売り手企業になる株主を決議おき、市場を通さずに買い取る方法です。この手続きには株主総会の特別決議を経る必要があります。決議には、出席株主の議決権の3分の2以上の承認を貰わなければなりません。決議を経る理由は、特定の株主からの購入になるため売買価格の合理性が疑わしい場合があるなど、他株主に不利益を与えることを防ぐ目的があります。
自社株買いのメリット・デメリット
自社株買いには多くのメリットがありますが、反対に気を付けておくべき点もあります。ここでは、メリットとデメリットをそれぞれ紹介します。
自社株買いのメリット
自社株買いは平成13年の商法改正までは認められていませんでした。法改正前までは、インサイダー取引を防止するために自社株の保有自体が禁止されていたのです。自己株式を持つことが許されるようになった背景には、自社株買いに以下のようなメリットがあるからです。
①敵対的買収防止
②株価低迷改善
③事業継承の負担減
④少数株主の整理
⑤M&Aの対価
まず、①敵対的買収防止という点では、自己株式の株比率を高めることで、敵対的買収を仕掛ける相手に大量の株を買われてしまうリスクを防ぐ効果があります。
②株価低迷改善については、自社株式を買い取ることで市場に流通する自社の株式が減少して株式の希少価値が高まり、評価が高まるチャンスになります。
③事業承継の負担減については、後継者の多額な相続税への対処として活用できます。後継者が所有する自社株式を会社が買い取って自己株式にすることで、後継者にかけられる相続税の対策になります。この場合、後継者だけでなく会社も自己株式を保有するメリットが得られます。
④少数株主の整理については、少額保有の株主への通知や総会への招集、決議などにかかるコストを減らすメリットが得られます。少数株主、少額株主から株式を買い取って自己株式にすることで、コスト削減と自己株式保有のメリットを得られます。
最後に、⑤M&Aの対価としてですが、多額の資金が必要となるM&Aにおいて準備として自己株式を保有するという方法もあります。
自社株買いのデメリット
自社株買いには多くのメリットがありますが、一部資金繰りや手続きにおいてデメリットが発生することがあります。
まず、自社株買いは手続きが煩雑であるというデメリットがあります。自社株買いで買い取る株主を決定するには株主総会の決議を経る必要があり、また、自己株式の売買は株価への影響があるため株主総会で説明や決議が必要です。意思決定から実際に株式を買うまでに時間がかかるため、入念な準備が必要です。
自社株買いは会社の資金繰りに影響を及ぼすというデメリットもあります。自己株式を買うには会社から現金を支払う必要があり、現金のは株価や取得数によって必要な額も大きくなります。事業が不調の場合は資金繰りが厳しくなることもあるため、、計画的な事業運用とセットで考える必要があります。
自己株式取得はあくまで経営手法のひとつです。過度に自社株買いに依存したり、無計画に行うものではありません。株主の利益にも影響する重大な経営判断となるため、信頼を失わないように計画しておきましょう。
なぜM&Aで自社株買いをするのか?
M&Aにおいて自社株買いをするメリットは何でしょうか。ここでは、M&Aと自社株買いの関係や効果について詳しく解説します。
M&Aと自社株買いの関係
M&Aの局面において自社株買いをするメリットは、①株式交換によるM&Aの対価とできること、②株式譲渡によるM&Aの対価とできること、の2点があげられます。
まず、①についてですが、会社は買い手に対して自社株で代金を支払うことができます。買い手の会社は売り手会社の株主に自社の株式を渡し、それと売り手会社の株式を買い手会社に引き渡します。この際、自己株式を対価にすることで、新株発行による株価の下落リスクや発行コストを減らすことができるのです。このケースでは、売り手は買い手の完全子会社になります。
次に、②については、売り手会社の株式を現金で買い取り、買い手側は対価を自己株式で支払うというものです。このケースでは、売り手会社の株主は、そのまま株を保有し続けることもでき、完全子会社にはなりません。しかし、この場合は売り手側の合意が必要となるため、条件面での話し合いなどコストは必要です。
このように、M&Aをする際に必要な資金に自己株式が利用できることがメリットです。M&Aを成功させるには資金が必要です。自己株式は、まとまった資金が必要なM&Aの局面において大きな恩恵があるのです。
現在と将来に渡ってメリットが大きい自社株買いで盤石の経営を
自社株買いは、自社の株価を上昇させたり、リスクやコストが伴う新株発行を回避することができるなど多くのメリットがあります。また、望まない敵対的な買収を防ぎ、自社のM&A局面でも自己株式を資金源とできるなど、柔軟性が高い資金となることも見逃せません。自社株買いは現在と将来のM&Aなども見据えて一度検討することをお勧めします。
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