今回は株式交換についての記事になります。株式交換は企業の組織再編で使用される手法の一つで、まずは用語の定義等から確認していきたいと思います。
株式交換とは
株式交換とは、あまりなじみのない言葉かもしれませんが、M&Aの手法の一つになります。M&Aという言葉をここで確認してみるとMergers and Acquisitionsなので企業の買収と合併になります。株式交換はある会社が、買収対象会社を100%子会社にする手法の一つであり、実際に日本でも海外でも多く使用されている企業買収の手法の一つになります。
皆さんが普段イメージするような、買収したい会社を、現金を対価に一括で買うというものではなく、買収したい会社について100%の親子会社関係を構築するために買収する側の会社が、他方の会社の株主から当該会社の株式を取得し、その対価として買収する側の会社の株式を交付する手法になります。
そのため、実際に手元に十分な資金が無くても、株式を対価としてM&Aなどの組織再編の行為ができるため、キャッシュを使わずに完全支配関係を構築できるという点でメリットがあります。
株式交換の手続
株式交換の手続きは、会社法で詳細に定められており、その内容は詳しくは弁護士等に確認することが望ましいですが、大まかに説明すると、①株式交換契約の締結、②株主総会における株式交換の承認、③債権者保護手続き、④株主による株式買い取り請求、⑤規制当局への届け出、⑥登記、⑦関連書類の備え置き、になります。一定の条件を満たすと簡易株式交換または略式株式交換ができますので、その要件は実際の案件に応じて判断することになり、M&Aに強い弁護士のサポート、アドバイザーによるサポートが必要になります。
株式交換における税制適格要件
株式交換において、重要な論点になるのは、税制上適格になるかどうかです。税制上適格かどうかについては、税法で定められている条件がありますが、その前に株式交換において株式の譲渡取引はどのように考えられているかを解説したいと思います。株式交換により、完全子会社の株主が株式を移転したときは、原則として株式は時価より移転したものと考えられていますが、株式交換取引において完全親会社の株式以外の資産が交付されないような、一般的な株式交換の取引である場合は、当該株式交換における株式譲渡益は繰り延べられます。
そして具体的な株式交換における税制適格要件ですが、一定の要件を充足する必要があります。即ち①対価要件、②完全支配関係継続要件、③事業関連性要件、④事業規模要件、⑤従業者継続要件、⑥経営参画要件、⑦事業継続要件、⑧株式継続保有要件、という8つの要件を頭に入れておく必要があります。具体的な要件の内容は専門家に確認することが重要ですが、一般的には下記のように定められています。
- 対価として株式交換等完全親法人株式等以外の資産が交付されないこと
- 株式交換等後に株式交換等完全親法人と株式交換等完全子法人との間に株式交換等完全親法人による完全支配関係が継続する
- 株式交換等完全子法人の事業と株式交換完全親法人(株式移転においては他の株式移転完全子法人)の事業とが相互に関連する
- 株式交換等完全子法人の事業と当該事業に関連する株式交換完全親法人(株式移転においては他の株式移転完全子法人)の事業のそれぞれの売上金額、従業者の数もしくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えない
- 株式交換等完全子法人の株式交換等直前の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が株式交換等完全子法人の業務に引き続き従事する
- 株式交換等前の株式交換等完全子法人(株式移転においては他の株式移転完全子法人を含む)の特定役員の全てが株式交換等に伴って退任するものでない
- 株式交換等完全子法人の事業が株式交換等完全子法人において引き続き行われることが見込まれていること
- 株式交換等により交付される株式交換等完全親法人株式等のうち支配株主(株式交換等直前に株式交換等完全子法人(株式移転においては他の株式移転完全子法人を含む)との間に支配関係がある株主)に交付されるものの全部が支配株主により継続して保有されることが見込まれている
株式交換における会計処理
一般的な株式交換における会計処理は会計におけるパーチェス法(買収される企業の時価を、取得対価にする考え方)によります。例を記載すると、以下のようになります。
A社とB社の間にはいままで資本関係はなかったが、この度A社はB社を完全子会社化することにし、株式交換による取引を行うことになった。
- A社は完全親会社、B社が被取得企業(完全子会社)になる
- A社は対価として自社株式10株(100万円)を交付、対価のすべてが新株になる。
上記により、買収する側の会社であるA社はB社の株式100万円を自社の貸借対照表に計上し、払い込み資本は同額増加することになります。このように基本的には貸借対照表の資産と純資産が変化する取引ですので、会計上は純資産が買収した企業分変化すると考えれば、シンプルに理解できるでしょう。なお、実務では完全子会社が取得企業になるような逆取得という取引もありますが、ここではシンプルにイメージしやすいように完全子会社=被取得企業というように例を設定しています。
株式交換による組織再編・M&Aのメリット
株式交換での最大のメリットは現金などの資産がなくても、株式を対価にして、組織再編が可能であり日本では平成11年(1999年)の商法において実際に制度上使用できることになり、今日に至るまで多くのM&A案件において完全支配関係を確立するための組織再編手法として広く採用されています。特にキャッシュが手元に必要ないことから買収にかかるコストを節減できるので大企業でグループ会社を作る際には有効な手段として重宝されています。ホールディングスなどの企業グループの形態を目的にしている場合は100%の親子会社関係を構築できる株式交換は非常に使用しやすいものになると思われます。
なお、このようなメリットもありますが、先ほど述べたように、会社法上必要な手続きもしっかりと定められているので、当該株式交換が無効になるといった結果にならないように、アドバイザーや、時には弁護士や法務部と連携しながら瑕疵のない手続きをして取引を完了させる必要があります。
株式交換における交換比率
株式交換のディールにおいては、実際に株式交換の比率を計算することが重要になります。実際の過去の案件でも株式交換の比率は公開されており、気になるM&A案件のうち上場会社に関する取引についてはプレスリリースを見ることで参考にすることができます。
具体的な説明をすると、株式交換の比率とは、親会社が株式交換の取引によって完全子会社化する際に子会社の株主に対し、持株数に応じて割り当てられる親会社の株式の比率を意味しています。例えば、親会社P社が子会社S社を株式交換により完全子会社化する取引を考えると、S社の株主にS社株10株に対してP社株5株が交付された場合、株式交換比率は1対0.5になります。つまりS社の株式10株:P社株5株という計算方法になります。
株式交換比率についてはファイナンシャルアドバイザーが企業価値算定の手続きの中で計算するものですが、自社にとって不利にならないようにアドバイザーとコミュニケーションを取ることが重要です。