今回は事業売却についての記事になります。事業売却は、後継者探しや事業承継というニーズに合わせて自社の事業を更なる成長ストーリーの載せることができるようなベストパートナーである事業会社やプライベートエクイティファンドに譲渡することで、売り主はキャッシュを手にすることができ、買収する側は、自社の事業とシナジーのある事業を取り込んだり、プライベートエクイティファンドの視点では、機関投資家から集めた資金を将来性のある資産や企業に投資することで、更なるリターンを生み出すことが可能になります。このため、事業売却(もしくは事業譲渡ともいいます)は、企業活動や経済活動の流れを活発にする潤滑油と言えると思います。
ここでは、事業譲渡・売却での気を付けるべき論点や、メリット、デメリットなどを中心に簡単に解説していきます
事業譲渡・事業売却とは
事業譲渡(事業売却)について、法人格を有する会社や組織として行っている事業の一部または全部を、外部の第三者に譲渡することを言います。M&Aのプロフェッショナルの間では一般にアセットディールとも言います。
定義から分かりますように、事業売却は譲渡する資産負債を譲渡する側が選択するのが可能なため、事業の全部を売却する「全部売却」、または事業の一部を売却する「一部売却」があります。売却対象となる事業は、財産である権利だけではなく、事業運営するのに必須な仕入先や得意先、販路、代理店契約などを含む場合もあります。他にも技術や知的財産権などの無形資産も譲渡対象となることが多いです。
また、事業を第3者に売却した場合に発生した譲渡益に関しては、売り手である会社・事業体に帰属します。すなわち、オーナーである株主が利益を手にできるわけではないので、事業売却により経済的な利益を獲得することを目的にしている場合は、そのような目的に沿わない可能性が高いので注意しておきたいところです。
換言すると、事業売却では、事業を運営している会社の法人格が消滅するわけではないということを頭に入れておきましょう。
事業譲渡・売却の会計処理
事業売却における会計上の仕訳について考えてみましょう。基本的に会計処理は資産の時価が基準になるので、事業売却に伴い受領する現金と、移転する資産の簿価と時価を頭に入れておけば会計上の処理や仕訳は問題なくできます。以下のような設例で考えてみましょう
会社Aは事業売却にあたり、資産のみを譲渡する意思決定をした。資産の簿価は、以下の通りです。
棚卸資産300
固定資産450
無形資産350
合計:1,100
そして各資産の時価の内訳は以下の通りとします
棚卸資産300
固定資産650
無形資産450
合計:1,400
時価と同額の現金を受領したと考えると、以下の仕訳になります(売り手側)
現金:1,400 / 棚卸資産300
固定資産450
無形資産350
事業売却益300
参考に事業の買い手側の処理を示すと以下の通りです。
棚卸資産300 / 現金1,400
固定資産650
無形資産450
なお、事業譲渡に伴う対価が時価と異なっていた場合は、どうなるのでしょうか。この場合は買手側にのれんが発生するので注意しましょう。参考として以下のように、上記の事業譲渡の際の対価は時価とは異なり2,000だったとしましょう。売り手側の処理は以下のようになります。
現金:2,000 / 棚卸資産300
固定資産450
無形資産350
事業売却益900
一方で買手側の会計処理は以下のようになります。受払した現金対価と、引き継ぐ資産の時価の差額がのれんとして貸借対照表に計上されているのが分かると思います。
棚卸資産300 / 現金2,000
固定資産650
無形資産450
のれん 600
一般的な資産の売却取引と同様の会計処理が行われるので、のれんの論点を除き、シンプルに理解しやすいと思います。
事業譲渡・売却の税務上の論点
ここでは、事業譲渡・事業売却における税務上の論点や留意すべき点を解説していきます。法人税法上の税務上の処理は、以下のようになります。
事業譲渡もしくは事業売却が成立した際には、譲渡側(売り手側)は売却価格を事業年度の益金に算入します。そして譲渡した資産の簿価は損金に算入されます。取引における売却価格が簿価総額を上回っている場合、差額である譲渡益が課税所得を構成し法人税が課税されます。一方、売却価格が簿価総額を下回る場合には譲渡損になり課税所得はマイナスとなります。
なお、会計上の処理で買手側に売却価格と簿価総額に差額が生じた場合は、会計上ののれんが発生します。この項目は税務上では「資産調整勘定」や「差額負債調整勘定」と呼びます。資産調整勘定や差額負債調整勘定は、5年間(60か月)にわたって月割で償却し損金に算入していきます。会計上ののれんのように、最長20年以内の任意期の期間で償却する方法ではないことに注意しましょう。
事業譲渡・売却のメリット
事業譲渡に伴うメリットは、次のようなものが考えられます。すなわち、メリット①売却益を得ることができる、メリット②従業員を残すことができる、メリット③不要な事業を譲渡でき、選択と集中ができる、メリット④債権者への通知や公告は不要、になります。
①について、売り手である企業は売却益および、売却にともなうキャッシュを得ることができ、更なる成長機会への投資、新規事業への投資への資金に充てることができるのがメリットでしょう。
②については、ケースバイケースではありますが、会社の法人ごとの売却とは異なり、従業員は残すことができるのがメリットですし、従業員はリストラのリスクにおびえることがないのはいい点でしょう。
③については、①に類似している点ではありますが、会社経営上大事な課題である不採算事業の整理や、成長機会への資金を集中させるなどの選択と集中が可能になり、企業経営の効率化を加速させることができる点です。
④については、事業譲渡(事業売却)は吸収合併や会社分割とは異なり、包括的な承継ではなく、特定の資産を承継する取引ですので債権者への公告・通知は不要なので手続き上は煩雑さが減るといえるでしょう。
事業譲渡・売却のデメリット
上記ではメリットを説明しましたが、ここではいくつかのデメリットを解説します。大きなものとしては①会社法上の手続きが必要(株主総会の特別決議)、②売却益への課税です。
会社法上の手続きが必要
特定の条件を満たす場合には、事業譲渡の効力発生日の前までに株主総会による承認が必要になります。
代表的な例を挙げると、譲渡企業の全ての事業を譲渡する場合、当該子会社株式の全部または一部を譲渡する場合(譲渡する株式または持分の帳簿価額が、譲渡企業の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の1/5(これを下回る割合を定款で定めた場合にあってはその割合)を超えるとき、かつ、譲渡企業が、効力発生日において子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しないとき)が該当します。
これらは会社法の467条で定められていますので詳細は専門家に確認しながら進めましょう。なお、一定の条件を達成すれば株主総会の特別決議は不要になるので、気になる方は会社法468条を確認してみると良いでしょう。
売却益への課税
売却益への課税については、事業譲渡に伴い譲渡益が生じた場合は、課税関係が生じることです。事業譲渡する際の売却価格と簿価の差額がどれくらいになるかは、M&Aのプロフェッショナルと密なコミュニケーションを取りながら確認しましょう。必要に応じて税理士などの協力も必要です。
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